科学未来館・毛利衛館長と会談

:お台場・日本科学未来館にて

2004年7月27日

宇宙飛行士毛利衛さん(現・日本科学未来館館長)と航空宇宙・ナノテクノロジー・情報通信・バイオなどのこれからの日本の科学技術振興政策について、約2時間にわたり会談しました。

↓会談の一部を採録しました↓

科学未来館のメインは「人」

宇佐美
 私は技術の集積地と呼ばれる大田区出身で、父は電子部品の町工場を営んでました。大学時代は理工学部の機械工学科で人工心臓を、当時少なくとも世界で最先端の先生のもとで研究をさせていただいた関係で、先端科学技術には大きな関心を持っています。また、日本の将来を考えると「科学技術創造立国」の道を、特に航空宇宙、ナノテクノロジーなどを最重点政策としてすすめる必要があると思うのですね。現状では若者の理系離れが目立ってきています。毛利さんと科学技術館なら何とかこの現状に風穴をあけあけられるのではないかと思うのですが。

毛利館長
 この科学未来館は国からの補正予算で約1000億円、その他に文部科学省、経済産業省から数百億の予算が投入されています。国費投入でこのような「ハコモノ」をつくると、どうしても「無駄な公共事業」といううがった目でみられてしまいがちです。「無駄な公共事業」にならないためにも、私たちは、1000億円以上の税金に何倍もの付加価値をつけて社会に還元していく、それは、一人でも多くの人に、押しつけではなく、科学技術に興味を持ってもらうことが最大の役割だと考えています。

 そのための重要なコンセプトは「人」です。

 日本全国には科学館と呼ばれる施設は沢山ありますが、残念ながら既存の科学館自体に活気がないところが多いのが現状です。多くの科学館が「物」に重点を置きすぎているのではないかと思うのですね。例えば新技術の製品や新素材をただ展示してもそれは、技術発達の流れに取り残されてすぐに陳腐化してしまいます。そのようにならないためにも、ただ物を見せるのではなく、そこに「人」を介入させようと考えました。そうすればたとえ物が古くても「今はこうなっています。ここまで進んでいます」と伝えることが出来ます。「スタッフも展示の一つである」という考え方ですね。例えば、理工系大学生卒業者を中心に50人〜60人招いて、1年ごとの契約で最大5年間スタッフとして働いてもらうインタープリター(技術の通訳者)という制度を取り入れています。彼ら自身がここで育って社会に出て活躍するためのステップとして利用できる一方で、来場される方々には最先端科学技術と「話し」が出来る訳です。少しでも若者が科学技術に興味を持つきっかけとしてお手伝い出来ればと思っています。

「科学館の枠を超えた人材育成機関」

宇佐美
 なるほど、見せる側から見る側への一方通行ではなく、双方向性を持たせることで、陳腐化も防ぎ、そこにコミュニケーションが生まれるわけですね。科学未来館はいわゆる科学館の枠を超えた人材育成機関でもあるんですね。それにしても科学未来館のスタッフはボランティアの方も含め、本当に生き生きと楽しそうに働いていますね。

毛利館長
 ありがとうございます。先程も申し上げましたが、私たちの施設には多額の国民のお金が投入されています。そうなると当然、入場者目標があります。例えばやみくもに修学旅行生をかき集めれば目標数達成というのは簡単にクリアできます。しかし、それに満足することなく子供達自ら科学未来館に足を運んでもらいたいと考えています。多くの子供達に友の会に入ってもらい、何度もリピーターとしてきてもらいたいですね。そうやって大きな波及効果が生まれることが目標ですね。

宇佐美
 私は松下政経塾時代にウォルト・ディズニーの手法を学びましたが、彼は「100センチの視点」という言葉を好んで使っています。それは子供の視点ですね。子供さんたちの目線に合わせて具現化しているからこそ、スタッフの方の笑顔がたえないんですね。
 先程インタープリター(技術の通訳者)のお話しがありましたが、政治は国民の声を立法という形に通訳する仕事なんだと思うんですね。例えば、コーヒー豆が置いてあるだけでは、そのコーヒー豆が上等な物なのかどうかなんて、ほとんどの人が解りません。コーヒー豆を挽いて、淹れて、出すと、多くの人に味を解ってもらえる。

毛利館長
 私が科学未来館でやっていることと、宇佐美さんが政治の世界でやられていること、実は同じ運動なのですね(笑)

「求められる明確な国家の科学技術政策」

宇佐美
 ただ、政治の世界はもっとスピードを上げなくてはいけませんね(笑)現状の体制ではあまりに遅すぎます。
 政治の話と非常に密接なことですが、90年代、アメリカが不景気どん底の中で、クリントン大統領が三つの重点政策、「IT」「航空宇宙」「バイオ」を、はっきりと打ち出したことによって、そこにニュービジネスを求めた人たち、そしてそれに対しての投資というものが非常に集中して いったと思うんですね。例えば、世界中で利用されているGPSシステムなどが挙げられれますね。このような、明確な産業政策の方向性が今の小泉政権にどうも見えてこないように思うのですね。毛利さんならこれからの日本の科学技術分野で最重点政策として何を提言されますか?

毛利館長
 やはり「航空宇宙」「ゲノム」「ナノテクノロジー」の三点が挙げられると思います。

 まずは航空宇宙についてですが、日本独自にやれるものと他国と協力すべきものと2つに分けて考えることが必要だと思います。例えば有人宇宙飛行なんかは、国際宇宙ステーション等で他国と協力して行うべきですね。単独で行うには、資金的な面のほか、どうしても、スペースシャトルの事故のように生死を伴うリスクとそれを乗り越えるパワーが必要になってきます。正直なところ日本では難しいかなと思ってしまいますね。ただこのようなの制約の中でもある分野ではキーを握ることも十分可能です。例えばNASAの映像技術なんかは日本独自のハイビジョン技術を採用してますし。NASAで使われているIBM製ノートパソコンは日本国内の工場で作られています。日本単独での航空宇宙開発としては無人飛行ですね。これはH-2ロケットで打ち上げられる人工衛星に代表されるように世界のトップレベルを走っています。日本独自にやれるものと他国と協力すべきものどちらにも言えることですが、将来の日本にはこの技術とこの技術が必要だ。といった長期的なビジョンを持って行うことが必要ですね。

 ゲノムについては、人間の生命に関わる非常に重要な価値をもつ分野ですから日本独自にどんどん進めていきたいですね。ただここで考えなければならない点は、クローン技術や遺伝子操作といった事柄も含みますから、科学技術の観点からではだけでなく、文化観、宗教観の問題も関わってきます。一般的にですが、キリスト教的思考が根底にあるヨーロッパ諸国なんかは慎重な考え方ですが、逆にアジア諸国はこの問題にフレキシブルに考えている。日本はどうするべきか。個人的にはその中間くらいなのかなと思いますが、いずれにせよ独自のガイドラインを作る必要がありますね。

 ナノテクノロジーは日本が得意とする分野といっていいですね。これは産業と結びつきも強いですし、現在でも世界のトップレベルを走っていると思います。

 この三点の他に挙げるとすれば、基礎研究をもっと大事にして欲しいですね。例えばニュートリノの研究もそうですが、基礎研究というのは「何年後にこれだけの結果がだせる」と予測しにくいんですね。どうしても国主体の研究では、ある程度結果の読める応用研究に予算が割かれる傾向にあります。一人の研究者のアイデアが上手くいくかもしれないし、上手くいかないかもしれない、という研究がもっと見直されたらいいですね。これは50年後の日本の国力に関わってくることだと思います。

宇佐美
 最後なりますが、これからの毛利さんの夢はなんですか?

毛利館長
 私は国の金で宇宙に行き研究を行うことができました。自分でもこんな幸福な人はなかなかいないと思っています(笑)。自分の一番得意とする科学技術の分野で恩返しをしたいですね。この科学未来館から一人でも多くの人が育っていけばと思います。

宇佐美
 この科学未来館のスタッフの方々を見ていると、「魅力的な人には魅力的な人が集まる」ですね。
 本日は貴重なお時間を頂きありがとうございました。

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